ブログページに「自筆証書遺言の日付について」を追加しました。
自筆証書遺言とは、民法で定められた遺言書の作成形式の1つで、遺言者が全文を自筆で書き、作成した日付、氏名を記入し、押印するものです(民法968条1項)。全文自筆、日付・氏名の記入、押印のうち、1つでも欠けると遺言として成立しません。
その自筆証書遺言をめぐり、令和3年に興味深い判決がありました。
遺言者が、入院中の平成27年4月13日に、遺言書の全文、同日の日付、氏名を記入し、退院後の同年5月10日に、弁護士の立会の下、押印したという事例で、それが自筆証書遺言として有効かが争われました。
ぱっと考えて、全文を遺言者が自筆し、日付・氏名も記入されていて、後日ではあるが印鑑も押されているのであれば、有効じゃないかと思えるかもしれません。
しかし、民法上は全文自筆、日付・氏名記入、押印の全てが揃って初めて遺言書として成立すると定めています。
しかも、日付の記入は、その遺言がいつ成立したかを確定させる意味があります。
例えば、高齢で認知症になりかけていて、遺言書を作成した時点で遺言書を作る能力があったのかどうかが争われた場合、遺言書を作成した日付が重要になります。
そういった意味でも、遺言書の作成日付は重要なのですが、本件の遺言書は、書かれた日付と実際に押印された日(すなわち遺言書として要件が整って完成した日)が異なるため、問題となったのです。
この事例において、高裁(名古屋高裁平成30年10月26日判決)は、遺言として無効と判断しました。
しかし、最高裁(令和3年1月18日判決)は、本件遺言書も直ちに無効とはいえないとして、高裁の判断を覆しました。
押印以外の全文自筆から、押印して遺言書が完成するまでの間が1ヵ月に満たないといった事情から、直ちに形式違反として無効としてしまうことは、遺言者の真意の実現を阻害することになるという価値判断が働いたようです。
このように、遺言書の作成については民法上の厳密な要件があり、思いもよらないところで有効無効が争われたりします。
本人が書いているから大丈夫だろうといった判断ではなく、作成の際にはきちんと専門家に相談して判断を仰いでいただければと思います。